Right edge, a Left flower

69696HIT キリリク 「奉仕」と「喧嘩」
※R18。剃毛描写がございます。苦手な方はご注意をば。


右手には薔薇の花を。
「さっ!観念しようか!」
「ちょ…オマエ、ひ、ひきょうだろ!?小宇宙使ってんじゃね、」
「だって暴れんだもん。いーよデスやっちゃいなよ。しばらく毒で動けないから」
「あは~んりょうか~い。暴れたらチンチンなくなっちゃうわよ」
「クソッ!…しね!オマエら二人ともしねっ!」
睨みつけた先にあった聖なる刃は、無粋なほどにTの字の形をしていた。
「しねっていうかあ?負けたオマエが悪いっていうかあ?なっ!ロディ」
「フッ…力こそ正義」
勝敗など、幸運の女神が微笑むかどうかの違いだろうが。
シュラは、最高にご機嫌の麗しい顔を罵ってやりたかったのに、全身を緩やかに支配する花の毒で喉まで痺れて、まともに声がでない。
床に転がされ、腹に跨られ、動かせやしないのにさらに両肩をがっちりと押さえ込まれる。
シュラは唯一、自由になる視線だけで腹の上のアフロディーテを射殺さんばかりに睨みつけた。実際に矢が飛ばないのが心底口惜しいと思いながら。
「あー、も~やっだコレ。やらしい聖剣みちゃったこれ」
「っ!…貴様…!」
そして、ふいに感じた下半身の開放感とやるせなさで、鳥肌がたった。奥歯が苛立ちで軋る。ニヤニヤと笑うばかりの顔二つが、口惜しい。
「オイ、ロディ。これ剃り終わった瞬間に積尸気行くからな!構えとけよ」
「りょうか~い」
嬉しそうな舌舐めずりと最高潮に歪んだ唇は、この世に類を見ないほど憎らしいものだった。
「ならば…ごっめえぇぇん」
「……ウッ!」
得意気に投げられたデスマスクのウィンクは、次に顔を見た時には瞳ごと潰してやろう。
敏感な部分の肌を滑らかに這う刃に誓ってから、シュラはこのどうしようもなくくだらない辱めに耐えた。
耐えて、そして心は復讐に燃えたぎっているはずなのに、二日後。
やっぱり花と刃は、一緒にやってくる。
「……シュラ、私は今どうしようもなく貴方に抱かれたいのだ」
磨羯宮のソファの上で、並べていた肩がさりげなく凭れかかってきた。距離をなくした所為で、手の甲をくすぐる赤い髪。
「……ああ、」
いつもなら甘えるように太腿を撫でる手のひらに、頬が弛んでいくのをとめられないことだろう。だが、今のシュラは違った。
ひく、と僅かな反応を見せたあと、手のひらをそっと掴んで、太腿からはずす。その仕草で、あまりのり気ではないのかと感じたカミュは、やや驚きながら、問い掛けた。シュラから誘われて、あまりにもなにかを企んだような時にこそカミュは行為に及ぶことを渋るが、自ら誘惑をしてシュラが拒むということはほとんどと言っていいほどなかったからだ。
「したくないのだろうか」
「いや、したくないというわけじゃないが、」
「ならばよいだろう?今日の私は貴方に酷くされたい気分なのだ」
オレはいつだって酷くしたい気分以外の何ものでもないと、シュラは返事をしたかった。
できるものなら、有無を言わさずこの場で押し倒して、服を脱いで、カミュが切ない懇願をするまで焦らしたい。
たった一度の抵抗で、カミュはめげない。
いきつくまでもが遊戯の一部であると思えるように仕込んだのはシュラだ。
もう一度、手のひらはやわやわと縋るように太腿から腰骨を弄る。シュラは、そんなふうに触られて、興奮するようにカミュから仕込まれたといってもいいだろう。無意識の反応という程度の範囲で。
「いつも貴方が私にしてくれるようにするから…抱いて欲しいのだ」
肌を手で、耳朶を吐息で擽るようにカミュは耳元で囁く。
シュラが、無表情の内側で心底の葛藤と、辱めを与えた二人の息の根を止めているうちに、すっと手のひらが、デニムの隙間から忍びこんで直に肌へ触れる。脇腹から筋を謎って臍に触れ、そして下腹部を滑り落ちようとする。
「駄目だ」
ボタンをそっとつまびいて、布に覆われたさらに先へ。
その直前にシュラは、きつく手のひらを掴んで押しとどめた。握った手のひらを肌から離させて、シュラは強い意志を浮かべてカミュを見つめた。さすがにカミュも本気の有様に気付いたのか、シュラの断固たる態度に目を丸くした。
「何故だ?そういう気分ではないのだろうか。でも、」
貴方のここは、と言いながらカミュはさりげなくシュラの股間に触れようとする。
「気の所為だ。そういう気分……じゃない」
終わりのない押し問答の如くに、シュラはカミュの手をまた拒み、ふいと顔を背けた。心にもないことを口にするのがあまりにもいたたまれなくなったからだ。
「なにか、貴方の機嫌を損ねるようなことをしただろうか。したのならはっきりと言って欲しい」
「別に機嫌が悪いわけじゃない。そうだ。オマエがしたいと言うのなら今日は口と指で、」
「イヤなのだ。それでは。私は貴方としたいのだ」
真剣な眼差しで囁かれる言葉は、男冥利に尽きると言っても良かった。シュラは、気付かれないように心の中で溢れる滝のような涙をのむ。だが。
「今日は無理だ」
「っ……」
それでもきっぱりと言い放った一言で、カミュが息を飲む。こんなあからさまな拒否など、いまだかつてしたこともなかった。相手の心を探るような言葉は、口にだして数秒後に後悔する。シュラが、もう少し言い方があったと些細な後悔に塗れていると、みるみるうちにカミュの眉間に皺が寄り、顔が曇っていく。晴れからの急激な雨は夕立だ。夕立は荒れる。
「理由を。せめてしたくない理由を」
「理由なんてない。したくないものはしたくないんだ。お前には悪いが」
「私の身体に飽きたのか?それとももう私に飽きたのだろうか」
案外、カミュという男には、頑ななまでに引きさがらない強さが兼ね備わっているということをシュラは知っていた。それは、根底に同じ性分を持ち得た同類だからこそ分かるようなものであろうが。
「そんなことあるわけもないだろうが」
そして、こんな時にこそカミュが隠し持っている豊富なまでの想像力がよからぬ力を発揮する。
「貴方が飽きたというのなら、私は貴方の望むどんなことにでも答えよう。今日は」
「いや、だからな?別にお前に飽きたとかそういうことじゃなくてだな。まあ、どんなことでもしてくれるというのは嬉しいが、それは別の日に叶えてくれ」
「今日でなければいやなのだ」
「だから口と手でならしてやる」
「どうしてそこまで頑ななのだろうか。なにか理由があるとしか思えないのだが」
「お前だってどうして今日はそんなに抱かれたいんだ?たいがい一回は渋るだろう」
「渋ったとしても、そのままなしくずしに抱くだろう。貴方は」
「それはお前がなしくずしにでも抱かれるからだ。オレの所為じゃない」
「まるで私が常に抱いて欲しいといっているような言い方なのだ」
「嘘じゃないだろう。嘘じゃ」
だんだんと、言葉を交わしていくうちに、カミュとの距離が広がる。物理的な距離も含めて。
「確かに嘘ではない。私は貴方に抱かれることが好きだ。精力的な貴方を誇りにすら思う。だが…ハッ!も、もしや…」
ムッとしたまま離れていく身体にいささかの悲しさを募らせるシュラの前で、淡々と言葉を紡いでいたカミュは、なにか思いついたように息をつき、独りでわなわなと震え始めた。
「いつもは飢えた狼のような貴方が今日はしたくない、まるで服を脱ぎたくないとでもいうように口と手でなどという…もしや、他の誰かともうすでに、」
「もうすでになんなんだ」
滑るようにカミュの唇が吐き出す的を得ていない言葉に、シュラは盛大な溜息を吐いた。
「すでに、貴方の身体には他の誰かとの情交の痕が、」
「情交ってなんだオイ」
「めくるめくような激しい行為を何度もして、そして、互いに欲望の痕を残していったのでは……?」
「そんなもん、オマエ以外の誰とするんだ誰と」
豊かなる想像力もここまでくると思わず褒めてやりたくなる。シュラも怪訝に眉を顰め、もはや疑いの色を強めるばかりのカミュの眼差しを見やった。
「……デスマスクか、アフロディーテ」
「そういう眼差しでオレを見てるんだなオマエは」
例え他の誰かと火遊びをしたと思われても、もはや女という選択肢がでてこないところが、シュラはまた少しだけ悲しかった。
「貴方達は仲がいい」
「オマエがそう思うのは勝手だが、オレは時々やつらの息の根を止めてやりたいと思うけどな」
そう。例えば今まさに。
「愛憎は裏返しというではないか。とどめをさしたいほどに愛している……うむ。わからなくはない」
「恐ろしいことをサラッと言うな」
「ならば、していないという証拠を見せて欲しいのだ」
証拠、と言われてシュラは内心でびくりと心臓が縮みあがった。
「しょ、証拠など、してもいないのにあるわけないだろう」
「簡単なことなのだ。服を脱ぎ、私を抱けばいい」
「オマエ、今日は珍しくしつこいな。無理なものは無理だ」
シュラは一瞬、気まずさと、後ろめたさから視線を反らせた。カミュは目ざとくそれに気付いた。その瞬間、ふっと瞳が曇り、そして凍結する。
「もういいのだ」
心地良い柔らかさだけを紡ぎ出す唇が、とげとげしい氷を吐きだした。その瞬間、シュラは体感温度が下がったような気がした。
「お、おい……」
「もういいといった」
カミュは凍りついた眼差しで、ふるりと震えたシュラを睨み、ソファから音もたてずに立ち上がると、さっさと背をむけて部屋から出て行こうとする。
「そんなに怒るな。少し拒んだだけだろうが」
リビングの扉へ手を駆ける瞬間、カミュはちらりと肩越しにシュラを睨み、言った。
「…怒ってなどいないのだ」
頭ごなしに怒り狂うというよりも、ふつふつと沸き上がってくるような怒りとともに、扉は閉まった。
独りきりになったリビングで、シュラはやれやれと息を吐く。
そして、復讐における仕返しの数がまた一つ増えた。
目潰しだけじゃ足りないと内心で吐き捨てて、ソファの上からカミュの気配を探った。自宮へ戻るようならば、少し時間を置いてほとぼりが冷めた頃にさりげなく謝罪しよう。
そう考えていたのだが、ふいにカミュの気配は磨羯宮から出ていくことを止め、寝室で留まった。どうやらそこから動く気はないようだった。
もういいと言っておきながら。
機嫌を損ねても、いまだすぐ傍に留まるということは、ほとぼりが冷めるという手段は使えないということだ。
勘違いにも近い不機嫌の理由を聞くまで、帰らないというカミュの頑なな意志のあらわれであろうから。
「さむ……」
寒さを増した部屋の中で、シュラは独りごちると、どうこの憎らしい下半身の弁解をするかと考え始めた。

静かに寝室の扉を開き、シュラは足を踏み入れる。
気配には気付いている癖に、背を向けて転がっている身体は反応しなかった。
まるで怒られて不貞腐れた子供ような態度に、シュラは思わず顔がニヤけた。実際不貞腐れているのだろう。
普段はクールな、大人の男が。
じわじわと威嚇の凍気で室温が下がる一方の中を、シュラはそれでも気にせず押し進んで、ベッドへ腰掛けた。キシ、と微かな音を立てて揺れる。
「まだ拗ねているのか」
シーツの上へ散らばった髪の一筋へ指先で触れて、シュラは問う。すっかり言葉の余韻が掻き消えてから、くぐもった声で答えが戻ってくる。
「私は拗ねてなどいないのだ」
どうだかと、思わず笑いながら口をついてでそうになったものを押しとどめて、シュラは転がったままの頭を一撫でする。
「触れないでほしいのだ」
きろりと視線だけでシュラを睨んで、カミュは億劫そうに頭を動かして手のひらを拒んだ。
「私は貴方に触れることを許されないのだから、貴方も私に触れてはならぬのだ。今日は」
「頭を撫でるぐらいいいだろうが」
「駄目なのだ。……絶対に駄目なのだ」
いまにもふん、と息まく音が聞こえてきそうな声音は、されどシュラの笑みを強めるばかりだった。たまにはこうして不貞腐れる姿も悪くない。
はあ、とシュラはわざと深い溜息をつく。
「……仕方ないな」
そわ、とカミュの身体が揺れる。
「なにが仕方ないのだ。こうして拗ねる私がか?」
「オマエ、さっき拗ねてないと言っただろうが。やっぱり嘘だったんだな」
「嘘ではない。今のは言葉のあやなのだ」
ほう、とシュラは頷きながらベッドへ乗り上がると、転がっているカミュの肩を掴んで強引に振り向かせる。
「なにをする」
真上から見下ろした顔にはまだ、絶対零度が張り付いている。シュラはその顔を見ながらカミュの右の手首を握った。
「いいか。まず最初に言っておくが、これはオマエが勘ぐっているように浮気だとかそういうことじゃない。…トランプで負けた罰、だからな」
「なに?」
「本当は元に戻るまで…でもオマエが不貞腐れるんじゃしょうがない」
時折視線を反らしながら、決まりの悪そうな顔をするシュラを、カミュは訝しむ。元に戻るまで、と聞き返すが、シュラはそれ以上なにも言わなかった。手首は掴んだままだった。
暫くなにかと葛藤しているように、シュラは押し黙る。そして、決心したと言わんばかりにカミュの腕を引いた。
「どうしたのだ……、」
そして導いたのは、デニムの隙間。カミュが指を差し入れた場所のもっと奥のその場所だった。突然のシュラの行動に、驚いたカミュはだが、すぐさま言葉を失った。
指先に触れるシュラの体温。もっとも敏感な場所の柔らかな肌の上。
「……何故!?」
吐息のように呟いたカミュの言葉が静かな寝室にこだまする。
「あー……だから、罰ゲームでやられた。できればオマエに知られたくないと思ってだな、」
「誰にやられたのだ」
「そんなもん、言わなくてもわかるだろ。こんなくだらないことするやつらなんて二人しかいない」
そわりそわりとカミュは、シュラの手に掴まれたまま、確かめるように指先で撫でさすった。
「なにもないのだ……」
「一昨日剃られたばっかりだからな。まあ多少は生えてきているが」
罰が悪そうな表情で、シュラはカミュの指先に触れられるがまま小さく舌打ちをした。
トランプの罰ゲームとして下生えを全て剃り落とされた代償は、やっぱり心地良いものじゃない。生えてきたばかりの産毛のような体毛は、触れられてもこそばゆいと感じるだけだ。
暫くカミュは目を丸くしたまま、茫然とシュラの柔肌に触れていた。
「デスマスクとアフロディーテに」
「アイツら以外誰がいる」
ぽつりとカミュが漏らしたことで、シュラは心底気分が悪いと眉間に皺を寄せた。
「だから、私を拒んだのだな」
「絶対に浮気じゃないからな。もし浮気で剃られたとしたら絶対にばらさないだろ」
「うむ」
「だから、悪いが生えるまで抱くのは、」
待ってくれ、とシュラはカミュの手をデニムの中から引き抜こうとした。でも、それよりも先にカミュはむくりとベッドから起き上がると、今度はシュラの手首を掴んだ。
「……わかったのだ。シュラ」
「は?」
それだけを呟くとベッドを降り、シュラの手を引いたまま部屋を出ようとする。
「おい、待てどこにいく、」
「もはやなにも言うまい」
カミュはそれだけを手短に呟き、シュラの手をぐいぐいと引いて歩き出した。
そして、浴室に足を踏み入れた瞬間、カミュはシュラの下半身に手をかけてデニムのボタンを外しにかかる。
「ちょ、ちょっと待て!なんなんだいきなり!」
シュラは慌ててその手を押しとどめたが、カミュはうむを言わせなかった。
「私の身体が貴方のもののように、貴方の身体も私のものであるということを教えるのだ。シュラ」
「なに!?」
まさか、そんなことを言い出すとはと、想像もしなかったカミュの言葉と行動に躊躇ったのが、命とりだった。不覚、と思ったところで、もはや遅かった。

無残に散らされた荒野に、やっと芽吹いたもの達が、再び音もたてずに刈り取られていく。
右手には、刃を。
「っ……」
再び見覚えのある感触に肌を撫でられて、シュラはバスタブの縁についた左手をきつく握り締めた。うっすらと塗られた石鹸のおかげで、多少肌への摩擦は和らいでいるのだろう。あの時のように背筋を逆なでする無粋な音はしない。
カミュは、息を詰めたシュラの反応を上目で見ながら無言で手を動かした。いくらもしないうちに、脱がされた下半身だけに緩やかなシャワーが当てられる。金属が軋む音を立てる。蛇口が閉ざされて、柔らかな水音が止まった。カミュは、右手の刃を手から滑り落とすと、うっとりと息を吐いた。
「ああ、シュラ……」
シュラが、あまり見るなと牽制する前に、カミュは何一つも残さず生まれたてに戻った肌へ、啄ばむようなキスをする。
「……なんでまた剃られなきゃならないんだ」
「貴方の身体は私のものだ。…一時でも見られたなんて…妬けてしまうのだ」
要するに嫉妬か、とシュラは頭の片隅で思ったが、続け様、下生えのあった場所へきつく痕を残すようにカミュから吸い上げられて眉を顰めた。
どんどん熱を帯びてくる昂りに触れながら、愛おしむようにシュラの下腹から腿の付け根まで、次々に唇を落としていく。
「…舐めてもいいだろうか」
愛撫の前に、わざと問うのはシュラがよく使う手口だが、カミュもまた、同じようにシュラへ問うた。
「…聞くな」
上目遣いで見上げてくる頬に触れながら、シュラはカミュの唇の中にねっとりと包まれていく己の昂りの全てをまざまざと見た。否、映したくなくても目に入る。
一度すっぽりと唇の中に収めたあと、カミュはゆっくりと全てを引き抜いて、先端から根元までを唇で辿る。
いくつも零れるリップ音の合い間に、ちらちらと舌を見せながら充血していくものを舌先で味わう。
「っ……抱いて欲しいだなんてねだってくるだけあるな。今日は」
いつもよりも濃厚な唇での愛撫を必死で堪えながら、シュラはにやりと笑って見せた。昂りの裏側に這う柔らかな潤みが、強烈に熱をあげていく。
「ンッ…ん…ふ…」
はっきりと口にするほど嫉妬の感情を露わにした所為なのか、カミュはただ昂りを口にしているだけなのに、もううっすらと肌が染まっている。嫉妬の炎は身を焦がすが、されど心を昂らせるものであることを、シュラは知っている。
両足の間で、緩やかに繰り返される上下の動きに神経を傾けながら、シュラは生温かな快感に包みこまれて宙を仰いだ。噛み締めても息が漏れる。
「もう、いい」
喉の奥へせり上がってくる吐息とともに吐精感が募ってきて、シュラは呻くように告げた。
でも、カミュの唇は留まることなく、さらに促すように頬の内側で先端を擦られる。唇だけでなく、ずっと滑らかになった肌を撫でていた指先が促すように昂りの根元に触れ、上下の動きとは真逆に撫で擦った。
シュラは身体の中で弾けそうな快感に目を閉じる。唇を噛んだつもりが、隙間からは息が零れる。
「…っ…うッ!」
カミュの舌先で、先端の窪みを抉られた瞬間、シュラは蠢く髪に絡ませていた指に力を込めて、吐き出した。噴き上げても、カミュの唇は離れることなく吐精を促すように、破裂にわななく昂りを舌で柔らかく包みこんだ。バスタブの縁で跳ねあがりそうな腰を必死に耐え、シュラは衝撃が余韻に変わるまで待つ。
白濁の雫を薄らと纏った赤い唇が離れ、赤い髪が揺れカミュは喉を鳴らした。うっとりと上気した眼差しが見上げてくる。悦かったかと言わんばかりに。
「唇だけでも貴方の肌の滑らかさがよくわかるのだ」
そわりとしゃがみこんでいた身体を揺らして、カミュは立ち上がった。シュラの視界の中に映るのは、そんな姿と打ち捨てられた一本の刃だった。
「お前の身体はオレのものだって言ったよな」
「うむ?」
ゆらりとシュラも立ち上がると、カミュの手首を左手で掴んで、それから右の手で剃刀を手にする。左手の花、右手の刃。
「…シュラ?」
自分が握るから、刃は聖なるものに違いないのだ。
「カミュ。脱げ」
シュラは満面のにやり笑いを浮かべたまま、カミュを浴室の冷たい壁に押し付けた。
先ほどとはまるで真逆の状況が、こんなにも興奮するものであったと、シュラは改めて緩む頬を引き締めなければならなかった。
肩幅に開かせたまま、閉じることができないようにカミュの両足の間にしゃがみこんで、シュラは眼前にあるカミュの肉の茎にわざと吐息をかける。
「ンッ……、そんな、近すぎるのだ」
「そうか?このぐらい近くないとオマエに怪我をさせたら困るだろう?」
上目遣いにちらりとカミュへ視線を向ければ、羞恥に塗れた唇は微かに震え、ますます肌に赤みが増した。
ぬるぬると石鹸の泡で滑る手のひらにしっかりと剃刀を握り、シュラは僅かにカミュの赤い下映えを散らしては手を止め、視線で舐めるように焦らして、やっと肌の半分までを剃り終えた。
動いたら薄皮の一枚や二枚切れるぞと脅した言葉は、しっかりとカミュの理性を押しとどめ、逆にさらなる羞恥を覚えさせているのだろう。
必死に壁へ押しつけた手のひらを握りしめて、カミュは声を漏らすまいと耐えていた。
シュラがカミュに施された剃毛のおよそ倍の時間は過ぎている。
「ハッ……ん…はや、…はやく終わらせて欲しいのだ」
唇の愛撫だけで興奮したカミュの肉茎は、脱がせた時にはすでに緩やかに熱を帯びていた。
だがそれも、時間をかけて視線と肌を滑り落ちる異質な快感を与え続けた所為で、充血が露わになった。
シュラは蚊の鳴くようなカミュの懇願を聞き、待っていたと言わんばかりに瞳を細めた。
「…何を?何を終わらせて欲しいんだ」
「うっ……あ…そ、そるのを…だな、」
躊躇いを口にして、甘えるように髪に絡められる指先の心地良さは、例えようがないほどに興奮する。
「…剃るって、なにを剃るんだ。言ってみろ」
小さく息を飲む囁かな音ですら艶めかしいと思いながら、シュラはカミュの言葉をまたずに再び柔らかな泡でしっとりと濡れて艶を増すばかりの赤い色へ、そっと刃を当てた。
泡ごと薄い刃先で拭うと、穢れの一つない肌がそこにある。剃りあげたばかりの場所へ、躊躇いもなくシュラは舌を這わせた。
「アッ!…う…っ…」
頭上であえかに零れた声をシュラは聞き逃さない。すかさず、カミュが先程痕を残したようにきつく歯を立てて吸い上げる。じわりと苦味を感じるのは、削ぎ落せなかった石鹸の名残か、それとも潤むばかりのカミュの雫がもたらすものか。
「あう……っ…うう…シュラ…」
ぶるぶると震える肉の茎の根元、ぎりぎりに残した痕を舌先でさらになぞって、シュラは問う。
「なんだ。まだ言わないのか」
唇を噛み締めて、蕩けた眼差しを落としてくる顔と、一切触れもしないのに泣くばかりの熱の塊へ交互に視線を送る。
カミュは、ひゅっと小さく喉を鳴らす。剥き出しの腰骨に張り付いた赤い髪が、そわりと揺れた。
「……っ…の、」
早く触れて欲しいのだろう。
耐えがたい羞恥なのだろう。
そう考えるだけで、シュラはたまらなく下腹が疼いた。羞恥に塗れる身体も、嫉妬を渦巻かせる心も、熱を促すばかりの心模様に過ぎない。
「聞こえないぞ?カミュ」
抱かれたい、とあれだけ口走ってきたということは、ただでさえ今日のカミュの理性は脆いはずなのだ。普段ならどれだけ焦らしても屈しないだろうことを、シュラはあえて言わせたい。再び小さく息を詰めたカミュを見れば、瞳ですらも興奮と欲情に濡れていた。
「……は、はずかしい…私の…を、貴方の手で…剃ってほしいのだ…」
吐息とともに溢れだした声に、シュラはそれでもまだ視線だけで問い掛けた。振り落ちてくる赤い髪と共に、漏れだしてくるさらなる言葉を。
カミュは、シュラの瞳に縫いとめられたまま、こくりと小さく喉を鳴らした。
――抱いてほしい。
小さくそう囁きが聞こえた瞬間、シュラは右手の刃をひらめかせて、恥ずかしい赤を全て散らす。
カランと、濡れたタイルの上に投げだした刃にはもう、要はない。
立ち上がった両手で、しっかりとカミュの両膝を掬って、背を壁に押し付けながら抱えあげると、首筋に腕は絡んでくる。深く重ねた唇の色。
「目を閉じるなよ。オマエの身体がオレを飲み込んでいくのをしっかり見てろ。よく見えるだろう?」
押し付けあった熱と熱にもつれるものはなく、酷く滑らかなばかりだった。
そっと背後へ手を差し入れて、石鹸の滑りを利用して侵入した内部は、熟れている。熱い。
ふっと零れた吐息をもっとと思う心のまま、シュラはいつもよりも性急に指の腹で掻き混ぜて、寛げる。
「ぅう…あ、…もう、おかしくなりそうなのだ…」
欲しい欲しいと潤むばかりの窄まりのように、カミュの瞳もとろりと甘い蜜を増す。
もう一度、抱えあげた身体を支え、シュラは腰を浮かせるようにして、カミュの窄まりに再びそそり立った昂りをあてがった。
「見てろよ」
互いの肉茎を覆うものは、何もない。雫を溢していまかいまかと待ちわびて脈を打つ有様も、何もかも全てが視界に映しだされる。
「う…しゅ、シュラ…」
羞恥に全身を染め、カミュはシュラの名を呼んだ。返事をする代わりにシュラは、ゆっくりと腰を推し進める。
「―――ッ!あ、う…ッ!」
シュラのいさましいまでの全貌が、先端から飲み込まれて、視界から消えていく。緩んだカミュの内壁が、花の色に充血して、シュラへきつく吸いついた。
全てを収めてしまう前に、シュラはカミュへ頬を寄せると、耳元で囁く。
「ほら。オマエのイヤらしいここにオレが食われる」
シュラの低音に肩を竦ませたカミュは、ふいに見せつけられるように浮かされた腰の先で、ずぶりと最後の一突きを飲み込んでいく有様を見た。そして、全身を流れる血が、沸騰する瞬間を見た。
「あうぅっ――!…ハ、ァッ!」
重苦しい淫らな衝撃が最奥を叩き、たまらずカミュは髪を打ち降って、壁とシュラの間で仰け反った。
びくりと反り上がった身体がもたらす快感を、シュラは耐える。
「…火遊びなんかしてたら、こんなに何度もオマエで興奮しないだろう?」
荒い呼吸を紡ぐばかりの耳元でそう囁いて腰を揺すっただけで、カミュは小さく声を漏らし、何度も頷いた。しっとりと汗ばむ首筋を舐め、堅く張り詰めるものを理解させる為に内壁を腹の内側へ向けて擦りあげる。
息も絶え絶えに私が悪かったと、カミュは、震える唇で微かに囁いた。
シュラは満足そうに、擦り寄せられる頬の感触に目を細め、その唇を舌で黙らせて、ゆっくりと挿入をはじめる。
両手には花。
花の隙間に刃は、隠した。