Fish or Human

2020年2月7日 水瓶座誕生日

tntnについてを語り合うシュラカミュです。スケベなことはしていないですが、部位を示す言語としての記載がありますので、苦手な方はご注意ください。


カミュの目の前で饒舌に語る男は時折、得意気な笑みを浮かべるものの、真剣な様子であるのは間違いなかった。
「鮫のオスのクラスパーは腹ビレが発達してできたものだから、左右それぞれのヒレにある。二本だ。動物で二本ある種は他にもいて、蛇やトカゲなどの爬虫類も二本だ。半陰茎、またはヘミペニスという」
一息で仕入れた知識を口にしたシュラは、言いたいことは言い切ったといわんばかりにニヤリと笑った。ここのところふと様子を伺うと、シュラは熱心に読書をしていることが多かった。いつもなら鍛錬にあてる時間になっても、黙々とページをめくっていたのはこういうことだったかと、カミュは納得をする。何かしらの物語を読んでいるかと思えば、動物の生態の本だった。シュラは感慨深そうに「二本か……」と独りごちる。
「ということは、鮫のクラスパーというのはペニスのことか」
「そうだ。スペイン語ではペネェェと言う」
「うむ。ロシア語はポロヴォイシュレンだ。フランス語ではペニス、幼い子にはル・ズィズィと」
「……ふ、ふん。そんなのは知っている。古代ギリシャではポスティオン、スワヒリ語ではウーーメだ!!」
「……そうだな。貴方が知らぬわけがないな。それだけペニスへの興味関心があるのならば」
何気なく口を出したことが気に入らなかったのか、シュラが悔しそうに唇を噛んだので、カミュはさりげなく讃えておく。シュラはすぐに気をよくして、得た知識の披露を続けた。
「ペニスが二本も素晴らしいが、アジアで発見された魚には頭部にペニスがあるそうだ。頭だぞ。どうする」
話を振られても、頭部にペニスがある魚は聞いたことも、見たこともない。どうもこうもないとカミュが押し黙っていると、シュラは無言など気にもせずに、魚ばかりではなく狼やら猫科の動物やら、様々な生き物のその部分の話をした。よくぞ学んだとは思うけれども、いかんせん知識に偏りがある。それでも滑らかに言葉を紡ぐシュラの声音は耳触りがよく、カミュは音色を遮る気にはならない。だが上機嫌に水を差すつもりはないけれども、知識を聞かせるのなら絶対零度についてを語った時には耳を傾けて欲しいとも思う。シュラはカミュが何度教えても、凍結温度を覚えない。絶対に話半分でしか聞いてはいない。
「タコは八本ある足の、部位としては腕と呼ばれるものの中に……ン、?!」
カミュは前触れもなく近寄って、情熱ではなく、知識を囁く唇を塞ぐ。みるみるうちに広がっていく黒い眼差しの驚愕を見て、満足をして離れる。
「おい、何してる。タコの交接腕についての話の途中だろうが」
手放した途端に、滑らかさを取り戻す唇はどこか小憎らしいが、柔らかかった。
「貴方の知識を聞くばかりではと思ったのでつい。そこでペニスとは全くもって関係はないが、ひとつ私の知識も聞いて欲しい」
「……なんだ。俺の興味を引く話なんだろうな」
「関心があるかはわからないが、私は唇を赤く彩るのならルージュではなく、私自身の手で染めあげたい。そしてキスが好きだ」 
またみるみるうちにシュラの眉間には皺がより、驚きは怪訝と不機嫌に変わった。
「ひとつじゃなくてふたつ言っ、…………ッ」
文句を吐き出そうとした赤くしたいものに、カミュはまたすかさず唇で触れ、漏れださないように押さえる。離れた瞬間にシュラは短く息をした。
「私の話は終わりなので続きを。タコがどうしたのだ」
「一体なんなんッ………だ」
カミュは話の続きを促しながらも、唇が開かれようとすればキスをして塞いだ。いくら睨まれようとも、シュラが話そうとする隙をつき、無防備を何度か攻めると、怪訝は徐々に緩む。抵抗することを諦めて受け入れることを選んだ体は、話すためではなく、自ら唇を開くようになる。重なり触れて啄むだけの交接は長くなり、シュラの隙を狙うばかりだったカミュは、ふいをつかれて舌を絡め取られないように没頭する。髪を掴まれて引き寄せられて、ならばとカミュはシュラとのキスを解かないままで、自らその膝に跨った。至近距離で互いの目を見たままで、交わす。そろそろ唇は色づいたかと、確かめようと離した合間を塗って、シュラは深々と溜息を吐いた。
「……万が一、俺の下半身が人ではなくなったとしても、魚であってもそれはそれで凄いかもしれないということを教えてやろうと思ったのに」
想像もしていなかったことを囁かれて、今度はカミュが驚いた。
「何の話だろうか」
シュラは口を開きかけたものの、返事の代わりに「あ」と声をあげた。
「お前が邪魔をしてくるからもうとっくに日付が変わっていた」
「日付が変わるのは私のせいではないと思う」
「お前が俺の足が人であればいいなどと言うから」
「人?……足?」
不貞腐れたように尖る唇の赤みは増していたものの、ごつんと八つ当たりのように額をぶつけられて、カミュは鈍い痛みに唸ることしかできなかった。
「いつか俺の誕生日にそう言った。お前は覚えていないんだな」
「誕生日?……そういえば言ったかもしれな、」
「かもしれないではなく言った。絶対に言った。山羊座の山羊は足が魚だから下半身が魚になると困ると。俺をまた抱きしめるとも言ったのに抱きしめられていない」
「今、まさに貴方を抱き締めているではないか」
「今日は俺の誕生日じゃない。お前の誕生日だ」
「……うむ」
カミュはじわじわと、いつかシュラに贈ったトランプ遊びをしながら交わした言葉を思い出す。他愛ない戯れ言を、シュラは忘れなかった。もしかしたらふいに思い出しただけかもしれないけれども、それでも熱心に人ではなくなってしまった時のもしやの為に、数多の人ではないものの下半身のことを調べていた。シュラはぶつぶつと途中になったタコの話への文句や、カミュが己の誕生日まで忘れていたことへの小言を述べている。その赤みの増した唇で。
「シュラ」
名を呼ぶと、シュラはふん、と鼻を鳴らした。
「シュラ。すまなかった。シュラ」
「今日も生きていて良かったな」
「それはとても嬉しく思うのだが貴方の下半身が魚になっていないか気になるので、祝福のかわりに確かめさせてもらえるとなお嬉しい」
「……魚だったらどうする。二本になってたらどうするんだ」
「それは困る」
「困る?……嬉しくてたまらないの間違いだろう?」
挑発的な笑みに満ちた柔らかなものは、それからもう一度、小さく祝福を述べた。
「今のところ貴方の頭部にペニスは生えていないな」
「今はその話に食いついてこないでいい」
「ああ、そうか。私が食いつかねばならないのは唇だった」
カミュはシュラに、キスをする。