C5N4H4、含窒素芳香族化合物。※R18です。閲覧にはご注意を。
身体を揺らす度に耳を撫でる音は、どこから響いて、奏でられているのだろうかと思う。
力を込めて掴む手のひらの中か、それとも柔らかな「覆い」の内側か。
届く音の強弱は決して身体に感じる振動の大きさと早さとは比例をせず、微弱であると認識するような揺れの幅であったとしても大きく聞こえて、不安定な支えが心元なくくず折れそうに大きな振動であったとしても、微かに耳に残る程度の時もあった。
地を歩こうが走ろうが、身体の支えとなるのは二本の足であるというのに、柔らかで弾む場所での支えとなる足の二本は、下半身にどれだけの力を込めた所でたいした役にも立ちはしないものだという事に気付く。
重ねた肌の上で営む行為は、常と変らない筈であるのに。
薄い皮膚の下で一筋に連なる骨が、何かに耐えるかのように捩れて、軋む。
顎先から、肩から落ちる熱で濡れたシーツが、軋むのと同時に握りしめられて捩れる。
「んっ…あ…ッ!…ああっ…」
下肢に感じる圧迫感は、いつもの行為とは比べ物にならない程に深く身体を貫いていて、後ろから突かれる度に、カミュは喉から声が漏れだすのを止めることができなかった。
眼前の、といってもすでに腕の力は抜けていて、埋もれそうになるシーツの真白な色が霞んで見える。吐き出す息が、苦しい。
それでも、面白いように背後からの快感は背骨を伝って喉を震わせて、飲み込んでいるにも関わらずに声は出た。
しこたま「無法者」を飲んだところで酔いの感覚が訪れる事はなかったのに、身体は火照り、頭はぐらぐらと揺れ、朦朧と霞んで苦しいと思うのに、それをえもいわれぬ感覚であると感じる状態こそが酔っている証ではないのかと、震える右腕に力を込めて伸ばす。
届きそうで届かないヘッドボードの縁、その先の壁に求めた崩れ落ちる身体の支え。
痛みを感じる程に強く掴まれた腰の骨が、そのうちに手のひらの熱さで溶けていくのではないかと思ったからだ。
手のひらの熱さと振動と、悦に塗れた感覚から逃げだすようにカミュの背骨は軋む。
軋んで、揺れて、脳に直接響く音になる。それだけでも鼓膜と身体は潤んで仕方がないというのに、反らせた身体をもう一つの熱い肌と鼓動が、少しの隙間もなく覆う。
「逃げる、な。まだ……」
たった一言の首の後ろで囁かれた言葉と、項を舐めまわすように浸食する荒い吐息は、伸ばした腕の力を奪い取る。
獣と同じ体勢で、両手両膝をベッドにつかされ、腰だけをしっかりと支えられて突き出した状態で、カミュはついに腕の力が抜けてシーツの感触を頬で直に感じた。
狭い視界の半分が柔らかな白に染まる。吐き出す声も呼吸も全てが籠る。
沈んだ熱の先端が、より深くカミュの内側に侵入する。
びりびりと背骨に低く重い快感が伝って、一際の快楽を耐えようと反射的に閉じられた瞳は次の瞬間に、想像もできなかった強い腕の力で引き寄せられて、内壁を強く抉られながら抱えられる一瞬の浮遊感で、見開かれた。
早く短く荒いだけの吐息が、衝撃で止まる。
最も深くにシュラの猛々しいまでの欲が侵入してきたかと思った次の瞬間には、強烈な快楽の摩擦を与えながら深い結合を一気に解こうとするように咥えこんだ入り口の場所まで抜かれ、唇を噛み締めたはずだったのに、長く細い艶が漏れた。
「あ……ぅ………ん……」
吐きだした喘ぎの声は、繋がったまま膝立ちで押し付けられた冷たい壁が、音もなく吸いこむ。
欲していたはずのものに手が届いたというのに、弓張りに背をしならせたままでカミュの身体はビクリと一度、大きく震えた。
甘いのか、甘くないのかと繋がる直前まで互いに貪りあっていた液体が、熱い呼吸に紛れて音もなく飛び、だらりと壁を伝って滴る。
腕だけではなく全ての力が抜けきった身体の後ろで、さも可笑しいのか嬉しいのかと言わないばかりに、薄らと汗に塗れた身体が揺れた。
「壁にくれてやるぐらいなら耐えろ。カミュ」
勝手に一人で先を極めたことをからかってやろうと、シュラは言葉を紡ごうとする。
だが、そっと背後から手を伸ばして触れたカミュの滴り塗れの中心を確かめて、その熱さに気付いた瞳は、無言のままで細く撓んだ。
「次の方が、もっと甘そうだな?」
余韻に震える肩先に顎を乗せて、シュラの放った言葉が全てを言わずとも、もう一度をねだる。
甘い、と口走る唇が耳朶を這いまわって、カミュの薄らと霞む意識を呼び戻す。
確実に、たった今放出したばかりの熱の白濁が、少しも甘くはなくむしろ苦いものであるとは知っている癖に、一体何を言っているのだろうか、と聞き返そうとしたカミュは、少しだけ鮮明になった意識で思い出して言葉を飲み込んだ。
やけに深く突き刺さったままのシュラの熱の形がやたらと鮮明に感じる。
苦いものを甘いというのも、甘くなればいいと思ったのも、それもこれも全てはただ一つの「無法者」の所為。
数日前に磨羯宮で飲みほした珍しい酒の味は、ここのところ暫くカミュの舌の上に残って、もっと飲んでみたい、という素直な欲求に形を変えていた。
アルコールが飲めないわけでも嫌いなわけでもないし、どこかの宮の主のように毎日毎晩、酒を食らわないと駄目になるというような性分ではないが、その一つの酒がカミュの心にとどまったのは、味だけではなく、存在そのものが心に引っかかる部分があったからかもしれない。
珍しく甘いものを抱えこんで食べていたシュラから、渡せと言われたと受け取った酒。
産地はフランス、「無法者」という意味合いの、その酒につけられた名前はスペイン語。
普段は余り飲まないビールの銘柄は「デスぺラドス」という。
カミュは先程、「デスぺラドス」の入手方法を聞きに双魚宮を訪れたのだが、事の次第と欲求をありのままにアフロディーテに伝えると、麗しすぎる笑顔で一言、
「少し待っててもらえるかい?私が収穫してきてあげる」
とにこやかに目を細め、カミュを自宮に置き去りにしたままどこかへと旅立ってしまった。
収穫とはすなわち、どこかしらに生え育っているものを摘み取ってくる、という意味だろうと思うが、もしかしたらビールぐらいならばこっそりと作ることができるのかもしれない、とカミュは思った。
酒の知識が高じたものが最終的に行きつく末路は、中毒という名の症状か、好きが高じて極める意味での作り手となるか。
知識に関してアフロディーテのすぐ傍には長けた人物がいるし、何かを育て、熟成させるといった栽培の意味では、アフロディーテの右に出る者はこの聖域にはいないだろうから。
置き去りにされたソファの上でぼんやりとそんな事を考えながら、だがもし自分が欲している酒をこっそり製造しているのだとしたら、それは完全なる模造品という名の偽物になるのではないのか、という意識が一瞬ちらついたものの、あの二人ならば本気でやりかねないし、本気でやって、どこか本物をも凌駕してしまう程のものを作り上げそうな気もした。
「うむ。あの二人は聖闘士ではなくとも生きていけるのだな。さすがだ」
「そんなに大きな声だと独りごとかどうかわかりかねるね。カミュ」
「思ったことをつい、」
「そうだな。老師は五老峰で面倒をみてくれるし、シオンは可愛い孫が世話をしてくれるだろうし。老後は安泰なんじゃないかな」
「…アフロディーテ…一体なんの話なのだろうか…?」
「え?…あの二人の老後の話じゃなくて?」
軽やかな足取りで、ソファに座るカミュの前に戻ってきたアフロディーテの両腕には、黄金色の、数日前に目にした瓶が数本抱え込まれていた。
薄桃に光るふっくらとした艶色の唇から、まるで囁かれる事がなさそうな単語が飛び出してきて、カミュは思わず首を傾げる。
「老後など、あの二人は私達よりも若いじゃないか」
「まあ、それよりもさ、はい。これ。君にあげる」
適当に交わす言葉が表わすのは、やはり適当さだとでもいうように、アフロディーテがテーブルの上に無造作に瓶を転がすから、ごろごろと黄金色の瓶は転がってテーブルから落ちそうになる。
「あ、アフロディーテ!もう少し穏やかに…」
「え?いらないの?」
「いや、いらないとは言ってない。貴方が収穫?してきてくれたのはとても嬉し。」
「きっとお気に召すと思ったんだ…だって、ねえ?」
一つずつカミュがテーブルの上に並べていく瓶を、また指先でころころと転がしながら、アフロディーテはからかうようにきらりと煌めく目を細め、じっとカミュを見つめると小さく笑った。
ねえ、という短い単語はそれだけで、カミュの心を見透かして語る。
「微かなライムの風味とテキーラビールという珍しい味がとても私の好みでその口当たりといったらまさにクールという名にふさわしくだな、」
僅かの間の後、見透かしたアフロディーテの笑みを面白いように一層濃くさせるカミュの口数は増えて、平然を装った顔の視線は反れる。
デスペラドスをとある宮の冷蔵庫から収穫してきた途中で、思い立って予測して、思い浮かんだカミュの顔と反応と寸分も違わない目の前の顔に、アフロディーテは楽しくなってうっかり頬が緩んでしまった。
「カミュ、知ってるかい?ビールはたくさん飲むと身体があま~くなるんだよ」
「…何?そうなのか?」
「ビールにはさ、プリン体っていうプリンの成分が含まれてるんだって。だから、たくさん飲むと、特にこのデスペラドスは身体がプリンのように甘くなるっていう話を聞いたんだよ」
「プリン」
カミュは反らしていた視線をアフロディーテに向けて、言葉を繰り返す。
「そうそう。甘くて柔らかくて、とろけるカラメルがいっぱいの…プリン、だよ」
プリン、と言ったアフロディーテの発音が、やたらと柔らかく甘ったるく聞こえて、カミュはもう一度、内心でプリンと繰り返す。
「デスペラドスを飲んで甘い身体になったら、いや、カミュはすでに甘いと思うんだけど、もっと甘くなったらさ…。素敵じゃないか」
「あまり甘くなりすぎても困る、のだが」
「ふ~ん。そうなんだ。…まあ、そんなに甘いものは好きじゃないしね」
「ああ…そうな、……」
「大丈夫だよ。…ビールの甘さと砂糖の甘さは違うから。私が断言してもいいが、きっと物凄く物凄く喜ぶと思うから。コレ全部飲んでみなよ」
ね?とアフロディーテはもう一度念を押して、カミュの腕に瓶を握らせた。
その顔は決して悪友の前で見せる事のない慈愛に満ち満ちたものであったが、胸の内と囁きは、悪魔のそれとさしては変わりはしない。
だが、悪魔の囁きを覆い隠す程の笑みは、例えるなら麗しい天使のそれと変わらないところが、アフロディーテの役得とも言える部分だった。
これがもし、巨蟹宮の主であったり、双児宮の片割れであったとしたら、カミュも少しは疑惑の念が浮かんだのかもしれないが。
「そうか…そうかもしれないな。ビールとデザートの甘さは違うものだと私も思う。それにこのビールは美味しい」
「フフ。なくなったら幾らでも私が収穫してきてあげるから、遠慮せずに飲んでくれ。まだまだ沢山あったから」
「貴方がそう言うのなら遠慮せずに頂いていく。ありがとうアフロディーテ」
ガチャガチャと瓶を抱え込み始めたカミュを愛おしそうに、でもどこか悪戯をする子供のような輝きを薄水色にのせて、アフロディーテは微笑んだ。
「凄く身体が甘くなることを願ってるよ。カミュ」
コクコクと、赤い髪を揺らしながら頷くのみで返事をした姿が部屋から出て行く所を見送って、アフロディーテはひらひらと後ろ姿に手を振りながら、ぽそりと独りごちる。
「プリン体って。可愛いな」
ニヤニヤと独り顔を綻ばせながら、これで突然、後生大事に冷やしてあった大量のデスペラドスが無くなったことへの不貞腐れた悪態をも回避もできるし、次に三人で飲む酒の美味しい前菜になったと思う。
前菜の食材はもちろん、甘いものが苦手で大好きな黒山羊のソテーだ。
暫くの時間は双魚宮から下に降りるのは控えようと心に決め、アフロディーテはその間に一眠りでもとカミュのいなくなったソファの上へころりと転がって、春眠を味わう事にする。
(春だから無法者もでやすい時期だし)
余り口にはしない甘いものが突然食べたくなったり、まるで子供のような卑猥な夢を見て目を覚まし、己の身体の素直な反応を知ってがっかりしたり、ここのところの自分の体調変化とどうも微妙な精神変化に首を傾げていたシュラは、宝瓶宮に呼び出され、どこかすわったままの瞳で指を差し出された事で、ようやくその理由を知った。
「甘くなっただろうか」
「…あのな、カミュ」
昼間から寝室にいると事前に告げられたものだから、それはどこか具合でも悪いのだろうかと些かの不安を抱いてきたシュラの思いは杞憂に終わり、ベッドを背もたれにして床に座り込んでビールを煽っていたカミュの周りには、飲み干された瓶が切なく転がっていた。
これでは、まるでどこかの酒臭い宮で良く見る景色じゃないか、と呆れた溜息をつきながらカミュを見ても、多少頬に色がついてはいるものの、平然とした顔はしていた。
だが、カミュの瞳がシュラの姿を視界におさめて、認識した時。
口から零れた言葉こそが、平然ではなかった。
「デスペラドスをたくさんのむと、プリン体という成分で身体がプリンのように甘くなると聞いたのだ。だから、甘くなっただろうか?」
やれやれと、その場に立ち尽くすシュラを尻目にカミュはもう一度指を差し出しながら、シュラに問う。
「それは、俺に確かめろといいたいのか?」
聞き返しながら差し出された指先とその整えられて染められた赤をじっと見ていると、先日見たあの夢の一端を思い出してどうにも妙な気分になった。
「貴方以外に誰が確かめる?」
さも当然の如くと言わんばかりの言葉はからかっているものでも、かといってあからさまな誘惑の言葉でもないのに、その真剣な様子が逆にシュラの妙な気分を煽る。普段ならば馬鹿を言うなと笑って窘める事ができるのに、湧き上がってくる感情が紛れもない興奮で、どうしたんだと自問したところで治まらなかった。
そこで、シュラは、ふと気付く。
この妙な気分と興奮、妙な精神不調と、指を差し出す目の前のカミュ。
今のこの時期特有の、本能が呼び出す温かさに浮かれた身体と性衝動はまさに、発情という言葉に当たるのではないのか。
やっと合点のあった思考にシュラは大いに納得をしてしまい、それならば心おきなくと、瞬時にして腹も括った。
発情、という抗い難い衝動ならばいたしかたない、とニヤリと笑ってカミュの前にしゃがみこむと、無言で見つめてくる赤の瞳を覗き込み、見せつけるように指先を咥え込んだ。
甘いかどうか確かめろと言われたのだからと、咥えた口の中で確かめるように舌を這わす。
「甘い」
「…そうか。指は甘くなっているのだな…アッ…」
ふむ、とシュラの言葉を聞いて頷いていたカミュが言い終わらないうちに、シュラはもう一度指の付け根までを口に含んだまま、指と指の境目を舐めた。薄く柔らかで、普段は余り意識しない箇所の皮膚を味わうように貪る。
「…ここも、甘い」
「なんだかそこは…と、とても変な感触で…。シュ、シュラ…こっちは…甘くなっているか?」
シュラの唇から逃げるように手を引いたカミュが、凭れていたベッドに身体を預けるようにして、やや上擦った声と共に晒したのは、摂取した酒精分の多さを如実に表わす首筋の皮膚。
「見ただけではわからん。そこも確かめるか?」
既にシュラの指先は確かめたくて、首筋に張り付いた数本の赤糸を払うように伸ばされているのに、薄く笑ってカミュの同意を得ようとする。
「甘くなりすぎても困るな」
「クレマ・カタラーナぐらいだったら平気だぞ。今ならいくらでも食えるからな」
「っう……ん…」
「ああ…ここもかなり甘い」
そのまま仰け反った顎先を滑るように舐め、シュラはカミュが首を反らせた事で背後のベッドシーツの上にまで散らばった長い赤糸を見て、煽情感をますます募らせた。
シュラの右腕はその赤糸を愛おしそうに撫でるのに、気付くと左腕はカミュの衣服の中に忍んでいて、唇は荒くなりだした呼吸と、見るからに甘そうな唇を躊躇いもなく吸う。
そのまま倒れこもうにも、辺りには空の瓶が散乱していて、狭すぎた。
「ベッドへ上がれ。カミュ。ここではお前の甘さを全て確かめられない」
絡ませあった唇を名残惜しげに離してシュラが囁くと、カミュが開いた虚ろな瞳が蕩けだす。
「貴方はまだ、甘くなっていないのか?」
「もっとお前の身体を舐めれば、甘くなるんじゃないか?」
弧を描き、ゆっくりと撓み、吊りあがっていくシュラの唇をじっと見ながら、カミュも嬉しそうに薄く微笑む。
「そうか、ならば存分に舐めてくれシュラ。貴方も甘くなったらいい」
「クレマ・カタラーナとどっちがいい?」
「もちろん、デスペラドスで」
静かに熱い言葉を交わしながら、ずるずるとベッドの上へと押し上げられたカミュの身体が、シーツに転がった。
「お前の一番甘い所を舐めさせろ」
まだだ、まだだと言われながら一番甘いところを舐められ、舐めて、もう何度もカミュは吐き出したのに、後ろから攻め立ててくるシュラはまだ次だと言う。
ひやりと押し付けた額に感じる壁の冷たさですらも、酷く心地がいいものだと感じる程に、カミュは今だ吐き出した直後の熱い身体を持て余している。
それなのに。
少しの休む間もなく後ろからのシュラによる振動が始まった。
「…あ…まっ……あ、ああ…っ…」
「…っ…時間をかけて柔らかくしたから…凄いな。今日は」
カミュの背を美しく湾曲させるシュラの欲が、内壁の形をなぞって、熱の痕を刻むようにゆっくりと体内で円の形を描く。
前後の抽送の動きとはまた違った、ジワリと滲むような痺れる快感が、ぬらぬらと這う蛇のように背筋を伝って、カミュの身体と心をどうしようもなく責める。
拒む言葉と抗う言葉と、吐きだしたいものはいくらでもあるのに、どれの一つを吐き出すこともできずにカミュは、長く艶の余韻を残す声を上げながら、身悶えた。
獣の形で圧し掛かられていた時よりも壁に押し付けられた事で、より密着したシュラの肌と、鼓動からその感情を察して、更にカミュの心が震える。
あれだけ吐きだして、まだ昂る熱と興奮は可笑しいくらいなのに、とんでもなく甘いと感じるのもやはりあの、デスペラドスの所為なのだろうか。
いつもよりも荒々しく触れてくる腕と、獣の行為を苦痛であると思うどころか、終わらないで欲しいとすら思う。
苦しい息も、だから甘い。
とてつもなく。
クレマ・カタラーナよりも数倍甘いのだと頭の片隅で実感していた意識を打ち壊すように、より反るように持ち上げられて、腰を抱いていたシュラの手が滑るように胸元に這わされた。
「ほら…もっと甘いのを出してみろ」
「っ!…っぅ………で、でな…」
大きく喘いで反る身体の、小さく膨らむ両の尖りを一度に弄られて、カミュはたまらないと拒むように揺れ、髪を散らばせる。
拒む反応をして見せたのに、シュラの抽送は途端に早くなり、意識が飛んでしまいそうな程の衝撃を与えて、止まらない。
荒々しい動きの筈なのに、シュラの掠めるその先が的確な場所ばかりを突いているから、尚の事、カミュはどうしようもなくなった。
乱暴に、拒絶をも聞かずに、だが、研ぎ澄まされた手管、それを「無法者」であると表現せずに、なんと言い表せばいいのだろうか。
溢れ出そうに焼けつく快感を必死に耐えているカミュの声が、肌を重ねて打ちつけ合う音と共に、響き渡る。
黒の髪から幾つもの激しい熱の雫を仰け反る肌に滴らせているシュラの腕が、カミュの顔を無理矢理反らせて、その唇を塞ぐ。
胸元で戯れていた指が滑り落ち、甘い熱に塗れた欲に再び触れて押さえ込む。
苦しい体勢と、苦しい快感と、それを煽るように、慰めるように絡められ貪ってきたシュラの口付が、最後の堰を取り払った。
あれだけ激しかったシュラの動きが、ふと止み、カミュの身体が跳ねる。
「ん……ン、う!…ぅ…っ!」
そのままびくびくと小さく震えていると、夢中でカミュの唇を貪っていたシュラの柳眉が、顰められた。
「……っ」
全ての動きが止まった中で、シュラの手の中からだらりと熱の甘さが零れ、またカミュも、身体の中で散った熱の酷い甘さに唯、酔い痴れた。
交わしていた口付を解いて、覆いかぶさるように壁にしなだれかかり荒い呼吸を紡ぐカミュを、シュラはそのまま抱き締める。
腰を掻き抱く腕と、痺れるような快感の余韻で喘ぐ己の身体を見て、やっと春のどこか妙な気分が晴れたような気がした。
カミュの肌の熱さが改めて心地良いものであると実感しながら、鮮明になりつつある冷静の中で、ふと辺りを見渡してみれば、床には幾つもの転がった空き瓶に、服に、邪魔だと放り投げられた枕。
ベッドの上だとて、滅茶苦茶になったシーツに、薄く赤い爪痕の残った壁と、飛び散った熱。
と、これは何か荒ぶるものが暴れた後ではないのかという程の寝室に、苦笑をしそうになり、思わず小さく呟く。
「まるで修羅でも暴れたかのように…酷いな」
違うぞシュラ、デスペラドスだ、と背後からの呟きを耳にしたカミュは、落ち着いてくる呼吸と比例するようにぼやける意識の中で、密かに返事をした。